キエサルヒマ大陸の世界

 ・ キエサルヒマ大陸の地理
 ・ ドラゴン種族
 ・ 魔術師
 ・ 黒魔術
 ・ 白魔術
 ・ 牙の塔
 ・ キムラック教会
 ・ 貴族連盟
 ・ 世界図塔
 ・ 世界書
 ・ スウェーデンボリー
 ・ 戯曲『魔王』

 

 

 キエサルヒマ大陸の地理

  キエサルヒマ大陸

    大きさ等は不明。夏は短いらしい。
    主な都市に、王都メベレンスト、商都トトカンタ、古都アレンハタム、自治都市アーバンラマ等がある。
  自治都市アーバンラマ

    四大都市のひとつ。
    数少ない自治都市であるらしい。詳細不明。
  商都トトカンタ

    四大都市のひとつ。
    商業が盛んであり、治安が良いという。
    慢性的な水不足に悩んでいる。西に数キロほど行くと、アイーデン山脈がある。
    トトカンタ市から北方に抜ける大きな街道はステアウェイ街道しかない。夏はこの街道は細長い宝石のようなものだ、とよく言われ、
    旅好きの者に絶賛される。
    大スカイミラー湖が東にある。
    魔術士の地位は、低くない。
  古都アレンハタム

    四大都市のひとつ。
    数百年前までは、ここが王都だった。
    運河の街で、面積の半分は無人の遺跡。
    中心街は元貴族街であり、さらに中心には昔の王城が建っている。現在では城は民間に開け放たれ、博物館兼図書館になって
    いる。
    観光都市であり、歴史あるこの街には毎年数十万からなる観光客が訪れる。
    この街には背の高い建物が多く、特に街の南方を占める居住区は、五階から六階あるようなアパートメントが立ち並び、町の中心から
    そちらの方向をちらりと見るだけで、空に向かってのっぺりとそびえるレンガ色の四角い影が見えるほどだ。
    地下には、バジリコックと言われる天人が築き上げた砦ある。
  王都メベレンスト

    文句なくこの大陸で最大規模を持った城塞都市を拠点とした、貴族たちの連合。
    軍隊の規模でも、財源でも、桁違いに強力な組織。
    実際の描写は未だなし。
  教会総本山キムラック

    大陸全土の教会を掌握する、巨大な聖都。大陸の北端にあり、王都に次ぐ巨大都市でもある。
    街の外観は内と外で完全に分離されており、その景観を目玉焼きに喩える者もいる。直径百キロほどの目玉焼きである。
    街の中心はユグドラシル神殿と呼ばれる白く巨大な神殿である。ユグドラシルとは、キムラック教会の崇める運命の三女神が住まう
    とされている、神界の名。キムラック教会の中心である。
    そしてその周囲を、きらびやかな街並みが囲んでいる。ここは中心街と呼ばれ、俗に、神殿街とも呼ばれている。
    最後に、この中心街と《学びの壁》で区切られたキムラックであってキムラックでない場所、スラムとなっている外輪街がある。
  牙の塔都市タフレム

    《牙の塔》がある、キエサルヒマ大陸でただひとつ、黒魔術士たちが心安く暮らすことを許された場所。
    王都は大陸の反対側。
    人口は、トトカンタ市の三分の一といったところ。
    街並みは、主にレンガで築かれ、背の高い建物などはさほどない。民間の住居はほとんどがアパート街で、下水道が完備されて
    いて、マンホールがちらちらと道に見えた。市の入り口には、例えばアレンハタムのような噴水や広場はないが、道はかなり広い。
    街に中央には、空にそびえる白亜の塔が建っている。やや右に傾いた、曲がった塔──街の象徴たる世界図塔である。
    結婚制度がない。
  キンクホール

 ドラゴン種族

  この世界のドラゴン種族

    太古の時代──遺跡などで発見されるドラゴン種族の年代記によれば一千年以上の昔、世界には魔術なんてものはなかった。
    大昔に存在していたのは神々の扱う全能の力、『魔法』の力だけだった。そして世界には今あるのと同じ自然と、獣たちがいた。
    人間も、その中の一種族にすぎなかった。
    だが獣たちの中に、奇妙に悪賢い知恵を持った六種族があった。
    真紅の獅子(フェアリー・ドラゴン)、深淵の森狼(ディープ・ドラゴン)など、彼らが、それまで神々だけが独占していた『魔法』の秘儀
    を盗み取って、全能ならぬ自分たちにも扱える『魔術』にしてしまったのだ。そのときの六種族が、現在ドラゴン種族と呼ばれてい
    るものだ。だからこの大陸には六種類のドラゴンがいるということになる。
    その六種のドラゴンとは、フェアリー・ドラゴン、レッド・ドラゴン、、ミスト・ドラゴン、ディープ・ドラゴン、ウォー・ドラゴン、──そして、
    ウィールド・ドラゴン=ノルニルである。
    六ドラゴン種族は神々の追撃を逃れて、巨人の大陸(ヨーツンヘイム)と呼ばれる神々の国から、このキエサルヒマ大陸にやってき
    た。
    ……途中、神々の放った配下やら手下やらと激烈な戦いもしたらしい。それら全てを退けて、ドラゴン種族たちはこの大陸を住処
    とした。彼らに遅れること何百年も経って、人間の祖先もこの大陸に入植してくる。これが三百年の昔である。
  ドラゴン種族の歴史

    キエサルヒマ大陸、ひいてはこの世界に住むドラゴン種族というのは、一般に我々がドラゴン! と言って想像する幻獣とは違う。
    「でっかくて、うろこがあって、羽根があって、火を吹いて、しかも金銀財宝を腹の下にに敷いて満足顔のトカゲの王様だ。ちょう
    ど……こんな(オーフェンが首から下げている紋章の)ような」ものは、ドラゴンとはおおむね、違う。この紋章に使われているのは、
    あくまで力の象徴としてのドラゴンだし、我々の想像に一番近いのは、単なる大型爬虫類──ダイナソアだ。しかもダイナソアは別
    に火は吐かないし、金銀財宝にも興味ない。ただのトカゲだ。
    伝説に出てくるドラゴンたちは卓越した魔術を使い、高度な知能を持ち、まれに言語を持つものもいたとか。
  ドラゴン種族と魔術

    ごくごく一般論的にランクをつければ、七種類の魔術のうち、最も強力だと言われているのがウォー・ドラゴン種族が用いる破壊魔
    術。文字通り、なにかを──あるいは、なにもかもを破壊するためだけの魔術。鋼鉄の軍馬(ウォー・ドラゴン)の名前の由来でもあ
    る。
    次に大きな効力を持っているのが、天なる人類(ウィールド・ドラゴン)──俗に古代の魔術士と呼んでいる天人たちの用いる沈黙
    魔術(ウィルド)。
    次いで深淵の黒狼の暗黒魔術ときて、人間たちの音声魔術は、この次と言ったところ。
    ミスト・ドラゴン種族の持っている大気魔術やレッド・ドラゴン種族の獣化魔術は、この下になるとも言えるらしい。
    が、この辺は巻を追うごとに、だんだん音声魔術の地位が落ちているような……。
  ドラゴン種族と魔術師

    キエサルヒマ大陸における人間の魔術士と、ドラゴン種族のそれとの違いは──ひとことで言えば、意味の違い、というところだろ
    う。
    太古の昔、神々から直接に魔法と言う秘儀を盗みだし自分たちの『魔術』としたドラゴン種族と、今から数百年ほど前に、そのドラ
    ゴン種族のひとつウィールド・ドラゴン種族との混血という形で、魔術士という特異な能力者を生み出すことになった人間──
    発生した経緯も違う──時期も違う──ただ由来だけは同じだが、その意味付けも、位置もまったく違う。現在、大陸でもっとも繁
    栄しているのは人間種族だろうが、にもかかわらず種族としての総合的な『力』という意味で、人間はドラゴン種族に遠く及ばない。
    といったことを、かたくなに認めようとしない魔術士も世の中にはいるが……
    また、ドラゴンたちは人間の魔術士たちを敵視している節がある。
    原因はこのあたりにあるらしいのだが……。
    ここは、本作品の最も深いところに繋がっているような気がする。
  6種のドラゴン種族

  ・ ウィールド・ドラゴン=ノルニル
        天なる人類、天人、古代の魔術士、ドラゴン種族の女王などと呼ばれる。人型。魔術文字(ウィルド・グラフ)を使用する。人
        間の魔術士の一方の祖先。
  ・ ディープ・ドラゴン=フェンリル
        深淵の森狼、ドラゴン種族の戦士、と言われたりする。狼型。使用する魔術は、視線を用いる暗黒魔術。戦士たちの故郷
        (ヴァルハラ)を護る。
  ・ ウォー・ドラゴン=スレイプニル
        そのふたつ名は、鋼鉄の軍馬、ドラゴン種族の王など。おそらく馬型。ドラゴンたちの扱う魔術の中でも最も強力な破壊魔術
        を用いる。
  ・ レッド・ドラゴン=バーサーカー
        使用する魔術は獣化魔術。極めて高度な知能、自然体系知識を持っているらしい。熊型のようだ。
  ・ フェアリー・ドラゴン=ヴァルキリー
        真紅の獅子と呼ばれる。芸術的能力が高いらしく、芸術の美都を築いたと言う。
  ・ ミスト・ドラゴン=トロール
        サイ型のドラゴン。非常に堅牢な身体と、強力な攻撃手段を持つ。最悪のドラゴンと呼ばれたりもする。大気魔術を用いる。

 魔術師――第7のドラゴン種族

  人間の魔術士の意味

    キエサルヒマ大陸における人間の魔術士と、ドラゴン種族のそれとの違いは、ひとことで言えば、意味の違い、というところだろう。
    太古の昔、神々から直接に魔法と言う秘儀を盗みだし自分たちの『魔術』としたドラゴン種族と、今から数百年ほど前に、そのドラ
    ゴン種族のひとつウィールド・ドラゴン種族との混血という形で、魔術士という特異な能力者を生み出すことになった人間。
    発生した経緯も時期も違う。ただ由来だけは同じだが、その意味付けも、位置もまったく違う。現在、大陸でもっとも繁栄している
    のは人間種族だろうが、にもかかわらず種族としての総合的な『力』という意味で、人間はドラゴン種族に遠く及ばない。
  この世界の魔術

    この世界の人間の魔術士(以後魔術士といったら人間の魔術士を指す)たちは、例外なく声などを媒介とした音声魔術を扱う。
    この力は、ウィールド・ドラゴン種族のノルニルたちから混血という形で受け継いだものである。
    ドラゴンが扱うものも含めて、『魔術』は『魔法』とは違う。
    そもそも世界の誕生と同時から神々が持っていた万能の力は『魔法』と呼び、神々の力には、不可能はないとか。
    『魔術』には自ずとできることに限界がある。その限界には個人差があるが、なにが原因になっているのかは、まだ結論が出ていな
    い。
    なお、その他のドラゴンの扱う魔術と比べても、人間の音声魔術はさほど弱い部類ではない。
    通常、魔術士が魔術を扱えるようになるまでは数年から十数年かかる。魔術という新な『感覚』を身に付けるだけでも、五年はかか
    ると言われている。
    一般に魔術士の成熟段階には三段階あり、一段階目が単に『魔術』と言われる力を知覚でき、また自らもその力を扱えること。そ
    して二段階目が重要で、その魔術の力を集中しまた増幅できること。ここで始めて魔術士としては一人前となり、牙の塔であれば
    紋章のペンダントを授与される。ちなみに三段階目は、一人前の魔術士になってから、その力によって大きな研究業績を上げて
    いるということで、魔術士の力量にはあまり関係がない。
  音声魔術

    破壊魔術、沈黙魔術、暗黒魔術についで強力であると、オーフェンは評価している。その下には、大気魔術や獣化魔術がある。
    昔、人間が魔術の力を得た当時は、その力はどうというほどものものでもなかったらしい。
    なお、力のある魔術士は年々減少傾向にあるという。これは、治安や福祉制度の発展から危険な魔術士の修行を行うものが減っ
    てきたことによるという。
    音声魔術の最も顕著な特徴は、声、つまり呪文を媒介にして魔術を行使することだ。だから、呪文の声の届かないところには魔術
    の効果も届かず、効果も永続しない。声をそのままの状態で保存することはできないからである。
    その効果の一端として、黒魔術士は神経にまで達する傷でなければ、その傷をいくらでも癒すことができる。もっとも、裏を返せ
    ば、致命的な傷は一切癒せないということになる。そこがディープ・ドラゴンなどの魔術との決定的な違いだ。
  黒魔術と白魔術

    人間の扱う音声魔術は、黒魔術と白魔術に大別できる。
    黒魔術は、熱、波動などの物理的なエネルギーや物質──肉体そのものを扱う魔術のことである。
    一方、白魔術は逆に、時間と精神とを操る。一見地味だが非常に強力で、白魔術こそ本当の魔術だというものもいる。
    一般に黒は実在する事象を扱い、白は実在しない事柄を操る、などと言われる。
    黒魔術と白魔術を同時に扱う術者というのは、歴史上に何人も存在はしない。
    現在、大陸の白魔術士のすべては貴族連盟の管理する《霧の滝》に幽閉されている。そのごく珍しい例外としてアザリーがいる。
  音声魔術のコツ by オーフェン

    「魔術のごく基本的な方法を教えるぞ。いいな……まずは標的をしっかりとにらみつけるんだ。その標的以外には、なにも見えね
    えくらいにな。そうしたら──今度は息を吸う。吸いつづけろ。吐いたら力が抜けるぞ」
    「息を吸っていると、いずれは限界がやってくる──当たり前だがな。そして、その限界が訪れたとき、標的が自分の鼻先にいるよ
    うに感じれば成功だ。構うこたねえ。腹の底から叫べばいい。俺が言っておいた発声練習をちゃんとやってたんなら、できるはず
    だ。そうすれば、お前の身体の中の魔力が、お前のイメージによってある形に編み上げられて放たれる──」
  関連事項

  ・ ドラゴン種族
  ・ 黒魔術
  ・ 白魔術

 黒魔術師

  黒魔術士の組織──大陸魔術士同盟

    黒魔術士たちが自分たちの身を守るために作った組織──それが大陸魔術士同盟(ダムズルズ・オリザンズ)である。
    ダムズルズ・オリザンズの名前は『古乙女の祈り』と言う意味で、その由来は大陸魔術士同盟の紋章が祈りを捧げる乙女の横顔か
    らである。半円形の盾の真ん中に、祈祷する女性の横顔が浮き彫りにされている。
    もっともドーチンの目には、どうもその女の顔は乙女というよりははるかに老けて見えたそうな。意味があるか否かは定かではない
    が。
    魔術士の地位は土地によって極端に変わる。それゆえ、大陸魔術士同盟の力も土地によって変わってくる。
    例えば、トトカンタでは魔術士同盟は絶大な力を持っている。王都より地理的に離れていることもあり、貴族連盟と言えどおいそれ
    ろ手出しできないくらいの権能を持っている。
   逆の例として、アレンハタムではドラゴン信仰が盛んなため、魔術士の地位は非常に低く、私刑を受けたりすることもある。
  大陸魔術士同盟の功績(?)

    大陸に出回っている地図は、そのほとんどが魔術士同盟発行のものである。これは別に魔術士たちの測量技術が優れていたと
    かいうことではまったくないのだが、大陸規模で一貫した組織力を持っているのが、同同盟くらいしかなかったのだ。
    ほかにあるとすれば貴族連盟下にある派遣警察だろうが、彼らが旅行者のための地図を発行するわけもない。
    だが魔術士同盟が編纂しただけあって、大陸地図の多くは北方と南方が極端に粗雑なものになっている。どちらも同盟の組織力
    が及ばないか、もしくはあまり興味をもっていない地域である。
    また現在、大陸に存在するすべての遺跡は、基本的には貴族連盟の所有になっている。だが取引の末、公式に魔術士同盟のも
    のになった遺跡もあるし、同盟が隠匿しているものも結構ある。
  黒魔術士と対立する組織

    黒魔術士を目の敵にしている組織が、この大陸には少なくとも三つある。
    その組織が強い勢力を持つ土地では、自然に魔術士の地位は低下し、最悪の場合、迫害から虐待──狩り出されて処刑されか
    ねない土地まである。
  ・ 王室
       王都メベレンスト──この大陸で最大規模を持った城塞都市を拠点とした、貴族たちの連合。軍隊の規模でも、財源でも、
       桁違いに強力な組織──国家だ。
       王室は、魔術士が強い権能を持つのを嫌い、できるかぎり俺たちの組織を分断して統治しようとしている。
       王室は直属の騎士団を持っており、白魔術士たちの要塞である《霧の滝》を統治している。《霧の滝》のある位置を知ってい
       るのは国王と、ごく限られた数名の側近だけだという。また、王城には《十三使徒》と呼ばれる宮廷魔術士たちの軍隊もあ
       る。《十三使徒》と言っても名前通りではなく、百名近い強力無比な黒魔術士の集団である。
  ・ 教会総本山
       運命の三女神(ウィールド・シスターズ)を奉じる彼らは、この大陸の北端にある彼らの都市から、大陸全土の教会すべてを統
       括している。彼らの教義は秘密主義の色が濃く、また魔術士を嫌っている。
       教会の勢力が強くなるのは、とにかく大陸の北部である。また公然の秘密ではあるが、教会総本山(キムラック)は《死の教
       師》と呼ばれる直属の暗殺部隊を持っている。
  ・ ドラゴン/その信仰者
       例えばアレンハタムはドラゴン信仰の街である。
       普通、ドラゴン信仰は辺境で細々と残っているに過ぎないのだが、このアレンハタムは例外で、言わば、大陸のドラゴン信仰
       における聖地なのだ。
       天人が運河と共に千年も昔に築き上げたとされる古き都。数百年前に人間の祖先が入植し、両者には友好関係が築き上
       げられて、その協力関係は永遠に続くかとも思われた。力なき人間達は強い天人に憧れ、それはいつしか信仰に変わる。
       そして人間の祖先は混血という形で、天人から魔術の血からを手に入れた。その行為に天人は戦慄し、人間の魔術士をす
       べて地上から抹殺しようとした。どうして彼女らがそこまで人間の魔術士を恐れたのか、その理由は分からない。だが結果と
       してこの街で魔術士狩りは一世紀近くも続いた。
       そして二百から三百年の昔、天人が地上から姿を消した。やがて、時と共に魔術士狩りの気風も下火になった。今では表立
       って魔術士を誹謗するような者もいない。が、現在のドラゴン信仰の中には、言外に人間の魔術士の存在を非難するような
       箇所も目立つ。つまり、人間の魔術士の存在が、ノルニルを失望させ、失踪させたのだと。
  関連事項

  ・ 牙の塔
  ・ 魔術師

白魔術師

  白魔術士の扱う領域

    魔術士の間で『精神』には、二種類の意味がある。
    ひとつは、記憶や神経の情報のことであり、もうひとつの本義は物理的に存在しないものの総称だ。
    魂、予言、心の声、時間など、精神の示すことは多岐にわたる。この精神が、白魔術士が操る領域だ。
    ただ、力で脅し付けて人間を心変わりさせることができるように、白魔術の領域から物理現象を起こすこともできる。もっとも、人間
    にはできないと、オーフェンは断言している。
    ちなみに、精神支配が高度で強力であるほど、精神支配というのはかけられた後に肉体的な疲労は覚えさせないといわれてい
    る。これは、他のドラゴン種族にも当てはまるらしい。
    力と物質を扱う黒魔術に対して、時間と精神を操る白魔術は絶対的な位置を持っている。だが扱う魔術が高度なためか、黒魔術
    士に比べて数は極端に少ない。
    なお、白魔術士の証として、巨大なサイコロを載せた帆船のペンダントを持つものがいるが、これが白魔術士一般に普遍的なこと
    なのか、それともそういった(《牙の塔》の剣とドラゴンの紋章のように)そのペンダントを持つ組織があるのかどうかは、不明。
  貴族連盟と《霧の滝》

    強力な白魔術士を恐れた貴族連盟は、《霧の滝》呼ばれる城塞に彼らを監禁、統治している。この貴族連盟の管理から逃れ得た
    白魔術士は、そうはいない。《霧の滝》のある位置を知っているのは国王と、ごく限られた数名の側近だけだという。
    (これより下は無謀編からの情報より)
    もっとも、白魔術士が本気になったら、いくら貴族連盟でも止められるものではない。ただ居心地は良いらしく、外に出ようとする者
    は少ないらしい。
    白魔術士は、城塞《霧の滝》で肉体を捨てて生活するための訓練を受けているらしい。
    彼らは普通の肉体を持った白魔術士を肉体士と呼び、それに対して肉体から解脱して幽霊のような精神体となった白魔術士を精
    神士と呼ぶ。どうやら、互いは必ずしも仲が良くはないらしい。なお、精神士は幽霊のように空を飛んだりはできるが、呼吸をして
     いないのに息を荒げたり、と妙に人間臭いところを残している。……が、無謀編でのことだから……。
  関連事項

  ・ 貴族連盟
  ・ 魔術師

 《牙の塔》

  3つの《牙の塔》

    一般に《牙の塔》と呼ばれるものは3つある。
  ・ 天人の遺跡/世界図塔
    キエサルヒマ大陸最大の遺跡である、世界図塔もその形から《牙の塔》と呼ばれることがある。
  ・ 《牙の塔》都市/タフレム市
    世界図塔を中心に広がる都市、タフレム市も通称《牙の塔》都市と呼ばれている。
  ・ 黒魔術の最高峰/《牙の塔》
    一般に《牙の塔》として知られるのが、この黒魔術の養成所としての《牙の塔》だ。
  大陸黒魔術の最高峰

    《牙の塔》は、大陸の黒魔術の最高峰であり、タフレム市にあるその施設は、魔術士養成所以上の存在である。魔術士同盟の中
    でもその位置づけは大きなものであるらしい。
    タフレム市の西部に、山岳地へと続いて行くなだらかな山地がある。そちらへ市街から徒歩で数時間、馬車ならば二時間足らずと
    行った距離に、森と丘に囲まれて、黄土色のレンガで築かれた城塞がそびえている。これが、魔術士養成所であるところの《牙の
    塔》である。
    山をひとつ越えているため、市街からうかがうことはできない。また間近に来たところで、敷地を囲む高さ三メートルの壁を見上げ
    るだけである。入り口はただひとつだけ、意外と普通に正門とだけよばれる鋼鉄の門。それを開くのに必要なものは、二等以上の
    市民権(それは過去における犯罪歴の皆無、一定額以上の寄付も含まれ、つまるところはいわゆる名士であるということ)である。
    もっとも、魔術士であれば、門番詰め所に近づいて声をかければ事足りる。上級魔術士ともなれば、タフレム市で馬車を手配した
    時点で早駆けの伝令が行くのではないかとも言われている。
  《牙の塔》での生活

    《牙の塔》の魔術士は、ほぼ例外なく孤児である。(4巻p168)
    それは誇張であるとしても、そういった人物の比率が極端に多いのは間違いない。その理由は、《塔》の訓練は死亡率が高いため
    親がいるような者は入門者になりにくい、魔術士の血を引いた子供を得るために《塔》の施設内で仕事として子供を産ませたりして
    いたこと、孤児院などから魔術士の血を引いた子供を引き抜いたりしていたこと、などが挙げられる。
    それゆえ、教室はそのまま家族の様なものとなる。だが、教室内の人物でも仲間ではあっても味方とは限らない。そういった意味
    では、《牙の塔》は家族愛に飢えた人物の集まりでもある。
    《塔》で役職についている人間は、ほとんどがタフレム市に居住権を持っている。義務ではないが、街に住むほうが便利なので、
    長老はほぼ全員街に家を持っているし、そこに住んでる。また、街に家を持つことはひとつのステータスでもある。
    そうでない者は寮などに住むわけだが、警備部の見張りは真夜中を過ぎると巡回の間隔が極端に長くなることは、《塔》で学んだ
    ことのある魔術士たちの間でなら、有名すぎることだ。つまり、その隙をついて夜間外出するというわけだ。
    基本的には魔術士の出入りはすべて記録されるらしいが、このような状況できちんと機能しているのだろうか?
    上級魔術士は漆黒のローブを着ることを許される。戦闘用にデザインされたものではなく、完全にただの儀式服として、かなり高
    価な素材が使われている。手触りはフェルトのようだが光沢があり、襟元にはドラゴンの紋章がピンバッジになってつけてある。無
    論、ペンダントのドラゴンの紋章も首にかけるのが正装だろう。
    ローブの下は、本来なら専用のアンダーウェアがあるのだが、外からでは分からないのでよく手抜きをされるようだ。
  《牙の塔》の施設

    《牙の塔》は、施設そのものの形状からすれば、塔よりはむしろ“城塞”である。高い防壁に囲まれ、入り口はひとつ(防壁には勝手
    口もあるが)。窓は小さく、ほとんどは高い階層に設けてある。九階建ての高層建築で、そのすべてが頑強な巨大圧縮煉瓦で作ら
    れている。
    外壁に内側には、まず敷地の四隅に物見の塔。その気になれば一軍を待機させられそうな広大な敷地。その奥に、例の城塞の
    ような建物がある。
    外から見るといかにも頑健で、無愛想なこの《塔》も、内部へと入れば、どうということのない、少し散らかった廊下があるだけだ。各
    階ともすべて同じ構造で、一フロアに数十の部屋がある。一階は主に《塔》執行部の末端組織である受付や事務室の部屋が並ん
    でいる。《塔》で簡単な事務手続きをするだけなら、一階だけで事足りるわけである。もっとも、《塔》執行部そのものは最上階にあ
    るために、連絡の不行き届きが多々あり、それが問題にはなっている。
    二階は主に物置や保管室で、これをクッションにして、三階運動室その他で起こる振動・物音を緩和するわけである。残りの階
    は、すべて教室および実験・実習室になっている。生徒などの寄宿舎は敷地外の別棟にあり、そちらへの出入りは、主に勝手口
    を使う。これは共同墓地へと続く出口である。
    各フロアの正面階段に一番近い部屋には、休憩室が必ず用意されている。待合室の役を負うこともある。木の長椅子、テーブ
    ル、古臭い時計、お湯さえ持ち歩いているのならば使えるのかもしれないコーヒーメーカーが置かれている。おまけに部屋には、
    窓がない。あまり居心地の良い部屋とは言えないようだ。
    《牙の塔》執行部に所属する警備部は、ふたつに分けられる。ハウスペットとウオッチドッグと俗に呼ばれるが、つまり《塔》施設内の
    警備を担当する課と門番である。意味は逆転していて前者のほうが上級職と見られているのだが、門番のほうは人手が充実し
    ているのに対し、内部警備はよく言えば少数精鋭、実のところは人手不足が慢性化している。
  《牙の塔》の運営システム

    結局のところ《塔》と言うのは、ただの学府ではなく、強力な結社といったほうが近いだろう。独自の機関、独自の諜報、独自の財
    源、独自の営利などを持った、黒魔術士によるひとつの社会。それが《牙の塔》である。
    組織のすべての行動を指図する、あるいは許可する権限を持つのが、最高執行部である。最高位の黒魔術士で編成されてお
    り、《塔》の重要な決定を下す。組織としては、末端の庶務部や事務なんかも含まれることになる。ただ、各教室にまで命令を下す
    権利は、最高執行部にしかない。また逆に、いかなる理由であっても、教室に処罰を下せるのも最高執行部だけである。教室間
    の私闘及び決闘は、無条件で同盟反逆罪に当たります。逆に言えば、そうでもしないと教室間の抗争を止められないのである。
    なお、長老たちは熱心に働いているとはいえず、「定時以降はサインひとつ書けない長老方を、今さら恨んでも仕方がない」とは、
    フォルテ・パッキンガムの台詞である。
    《塔》執行部内の役職についている人間のことを長老、エルダーと言う。5巻のレティシャの台詞より考えると、エルダーメンバーは
    20人らしい。
    最高執行部は頭脳となるだけで、実際的な行動力は持たない。それを受け持つのが、各教室だ。教室は、教師と生徒で構成さ
    れ、普段はただの教室として機能している。教師の教えることを、生徒が学ぶ。ただ、市井の教室との違いは、彼らは執行部の命
    令を遂行する義務があるということだ。その見返りに、黒魔術の最高峰《牙の塔》で学ぶことができるわけである。
    上の長老とは別に、上級魔術士という地位もある。簡単に言えば《塔》で教師以上の役職についている者に与えられるが、ほかに
    も年齢十五歳以上で年間首席を取れば上級魔術士として認定される。また、稀に《塔》外部の魔術士に対しても、なにか多大な
    業績があれば例外的に認められることもある。一種の名誉称号といったところだ。
  関連事項

  ・ 魔術師
  ・ 黒魔術
  ・ 世界図塔
  ・ タフレム市

教会総本山――キムラック

  教会総本山の立場

    教会総本山キムラックは、運命の三女神(ウィールド・シスターズ)を奉じる。そしてこの大陸の北端にある彼らの聖都から、大陸全
    土の教会すべてを統括している。彼らの教義は秘密主義の色が濃く、余人には分かりづらいというので、信者自体は意外に多く
    ないのかもしれない。
    だが、大きな力を持っていることは間違いなく、《牙の塔》の北は魔術士にとって危険地帯といってよいほどだ。なぜなら、教会は
    魔術士を存在すらも認めず、公然と魔術士を敵視しているからだ。
    その理由ははっきりとしてはいないが、少しずつ明らかになってきている。その一端は世界書の記述、戯曲『魔王』などから伺うこと
    ができる。
    また、教会は万物の覇王スウェーデンボリーの名も忌諱している。この神々の覇王は運命の三女神をも滅ぼそうとしているからだ
    という。
  教会の黎明期

    キムラック教会は貴族連盟に取り入ることで国教の地位を手に入れた。
    当時は魔術士同盟も、それを歓迎していた。貴族連盟も魔術士同盟も、様々な理由からそれまでの主流だったドラゴン信仰を危
    険視するようになっていたからだ。どちらにとってもキムラック教会を台頭させることが生命線だったのだ。
    なぜなら、ドラゴン信仰者たちはどちらの組織にとっても邪魔な存在だったからだ。
    魔術士にとっては、魔術士狩りの脅威があった。天人が地上から姿を消したのが二百年前。だが天人にたきつけられたドラゴン
    信仰者たちは、あくまで自分たちだけでも魔術士をこの世から根絶しようとしていたのだ。
    貴族連盟にとっても、天人に地上にいて欲しくはなかった。大陸の遺跡の所有権に関することもふくめ、彼女らこそが本来の大陸
    の支配者だったからだ。天人種族が生きている限り、貴族たちの支配権は正当化されない。それゆえ、彼女らがまだ大陸のどこ
    かで生きていると信じているドラゴン信仰者は邪魔だった。
    もっとも魔術士同盟にとっては、そのあとすぐにキムラック教会までもが魔術士の全処刑を宣言したわけだから、あまり意味はなか
    ったことになるが。
    まだ人間の社会にとっては、黎明期のさらに初期。魔術士同盟も貴族連盟もキムラック教会も、まだまだ自分たちだけでその組織
    力を維持でいる段階ではなく、このように互いを利用して組織力を強めることが行われてきたのだ。
  教会の暗殺部隊──死の教師

    キムラック教会は、対魔術士の組織として「死の教師」と呼ばれる暗殺部隊を持っている。彼らは教会の意に添わないものを、速
    やかに地上から抹殺する。
    もっともその実、死の教師に抹殺される者の多くは、異端の教師だったりするようだが。なぜなら魔術士をそうでない人間が抹殺
    することは非常に困難だからだ。
    最終拝謁が許されるのは、教師長クラスの神官か死の教師だけだそうだ。だが、この最終拝謁が何を指すのかはまだ不明。
    また、聖都から外へ出ることを許されているのは、この死の教師のみである。必然的に、タフレム市や王都への潜入捜査など、聖
    都の外の活動は彼らが行なうことになる。
    彼らを象徴する武器として、ガラスの剣がある。
    その柄の先に刀身を見ることはできない。わずかにしか光を反射しない、特殊な硬質ガラスの剣。静止状態なら刀身の輪郭を視
    認すること程度は可能だが、これを高速で振り回されれば、肉眼で捕らえることは極めて困難である。大振りするだけならまだし
    も、小技も混ぜて扱えば、躱されることはまずないと言っていい。大陸に八振りしかないと言われる。
    現在までに作品に登場した死の教師たちは、サリュア・ソリュード(4巻)、メッチェン・アミック(7巻)、クオ・ヴァディス・パテル、ネイム・
    オンリー、カーロッタ・マウセン、オレイル・サリドン(8巻)。総勢6人なので、オレイルも現役なら、これで全員だと言うことになる。
    だが、その結束は硬いとは言えず、この6人の中でもサリュアとメッチェンはリーダー格のクオに対して不審感を持っており、オレイ
    ルもこの二人に手を貸しているようだ。ただ、このクオと言う男は、かつてあのチャイルドマン教師をも退けたそうだ。
  運命の三女神(ウィールド・シスターズ)

    大陸でもっともポピュラーな運命の三女神信仰には、巫女という資格の神官はいない。なぜなら女神そのものが、なんらかの神に
    捧げられた巫女のようなものだと言われているからだ。
    また、キムラック教徒の教義に、こんな三人の女神の神話がある。
    過去(ウルズ)と、現在(ヴェルザンディ)と、未来(スクルド)の、運命の三姉妹(ウィールド・シスターズ)。三者は同じ女神なのに、互い
    が出会うことは決してない。過去は現在と未来の存在を知らないし、未来は断絶されている。現在だけが、過去を知り、未来を信じ
    ているけれど、なにもできずに檻の中に閉じ込められている。
    また、気になるのは「この大陸に神はいない」と断言していることである。すなわち、彼女ら運命の女神たちはこの大陸の存在では
    ないのだ。これは、メッチェンの台詞(下記)とも整合する。
    人はそこにいない神を信仰対象にできるのだろうか? (現実にしている、という話もあるが)
  砂の戦争

    キムラック教会は過去、《牙の塔》都市タフレム市を攻めた。半世紀前に起こった、この魔術士とキムラック教会の戦争を砂の戦争
    と呼ぶ。
    このときタフレム市の住人たちは《塔》に逃げ込んだが、教会は無人であるはずの街を破壊目標にした。そして、無人のタフレム
    市を破壊しているところを、力を溜めていた魔術士に側面から攻められて敗走した。
    実はこの戦争の動機は、世界図塔の中にあった『世界書』であり、これの入手に成功したので教会軍は撤退したのだという。
    この後、教会は貴族連盟により、軍隊の解散に追い込まれる。
  《フェンリルの森》の保護

    数百年前、創設間もないキムラック教会は《フェンリルの森》の保護、不可侵を訴えた。時の教主ラモニロックによって発されたこ
    の“女神の命令”は、以来貴族連盟と教会の手により守られてきている。理由はふたつ。ひとつは、そもそも《森》はさほど魅力的
    な開発土壌ではないこと。もうひとつは、わざわざ人間などが保護しなくても《森》はもっと強力な守護者を持っていたこと。即ち
    数々のドラゴン種族である。
    この“女神の命令”の理由も明らかにされてはいないが、やがて明かされるだろう。少なくとも、魔術士を敵視することと深く関係し
    ていることは疑いない。
  メッチェンの台詞(懺悔?)

    「ああ神よ、わたしは幸せです。死してのちも、あなたに会えない」
    「わたしは背教者です。背いた者として、すべてを生きて来たのです。あなたに会えば、わたしは破滅するでしょう。あなたを愛し
    ています……」
    「なにを話せばいいのでしょう? 夢の中で聞いた声を? ですがわたしは、夢見ることなど望まなかったのです。わたしはあなた
    にお会いせずに、あなたのもとへと参りたいのです……」
    「それが叶うのですね。わたしは喜んでもよろしいのですね。犬のように感激してもよいのですね……」
    「わたしが殺めた者は、あなたの敵。あなたの顰み。ですがあなたは怒りを止めない。わたしには分かっていたのです」
    「わたしは涙をこぼしました。痛みなど知らずに。汚れることをわたしは知っていたのです。汚されたときもそれを知っていたので
    す……」
    クリーオウ「なんだか、よく分かんないわね」
    「さもありなん。わたしは死んだのだもの」
  関連事項

  ・ キムラック

 貴族連盟

  キエサルヒマ大陸における貴族連盟の立場

    いわゆる、王家と言う言葉に近いのが、この貴族連盟だろう。
    彼らは王都メベンレストを拠点とした貴族たちの連合で、財源、軍事力ともに大陸随一の組織である。
    実際、大陸東部では絶大な影響力を持つ。
    ただし、西部を軽視する傾向にあるらしく、あまり実質的権力を持っていないように見える。
    とはいえ、魔術士を敵視しており、さまざまな制限を与えている。
    実は現在の貴族連盟には盟主たる『王家』はあるのだが、王という絶対君主は存在していない。貴族たちは最後の王を八重殺の
    刑に処してさらし首にしたと、トトカンタの学校の歴史の時間では教えられている。
  貴族連盟の持つ軍事力

    まず、貴族連盟は直属の騎士団を持っている。
    キムラック協会の軍隊を奪った現在では、おそらく大陸唯一の純武力による軍隊ではなかろうか(5巻冒頭ドーチンの台詞より類
    推)。
    また、白魔術士たちの要塞である《霧の滝》を統治している。《霧の滝》のある位置を知っているのは国王と、ごく限られた数名の
    側近だけだという。
    さらに、王城には《十三使徒》と呼ばれる宮廷魔術士たちの軍隊もある。その実態は百名近い強力無比な黒魔術士の集団であ
    る。
    また、軍事力と呼べるかどうかは不明だが、王立治安警察隊の派遣警察は、この大陸唯一の全体陸規模の警察組織である。派
    遣警察は大陸各地に支部を持ち、逃亡犯や、地方地方の司法組織では手に負えないような大掛かりな犯罪を取り締まる。権力
    的に地方警察より強い権能を持つわけでは決してないのだが、組織力や情報力では断然上回り、人材の育成にも力を入れてい
    る。司法エリートの集まりである。はず。
    派遣警察と地方警察の違いは、大雑把にはその自治体の範囲までしか活動しない地方警察に対し、派遣警察は大陸規模の捜
    査網を持つと思えばいい。また、地方警察の要請を受けて、派遣警察が特殊犯罪の専門官を派遣する場合もあり、それが派遣
    警察の名称の由来だった。
  貴族連盟の対立組織

  ・ ドラゴン
       貴族連盟は、自らを大陸の正当なる統治者であるとしている。
       そのためには、真の大陸の支配者であるドラゴン達の存在が邪魔になるのだ。
       邪魔になったからといって排除できるものでもないが、少なくともドラゴン信仰だけでも根絶させたい、というのが本音だろう。
       文脈から、このドラゴン信仰が狭義の天人信仰と読める部分もあるが、他のドラゴンを信仰する者が少ないだけで、他のドラ
       ゴンを信奉する者を受け入れるという意味ではないと考える。
       自分達が天人種族の後継者であるという論理から、貴族連盟は大陸の遺跡の所有権を自らのものとしている。数少ない例
       外を除けば、ほとんどの遺跡は貴族連盟の所有物であると大陸法で定め、これを侵すものには王権反逆罪を適用して厳罰
       に処している。
  ・ 魔術師
       貴族連盟は、魔術士が強い権能を持つことに懸念を持っている。
       実際のところ、一般人がいくら束になったところで、訓練した魔術士に適うものではない。つまり、魔術士は超越者の血筋で
       あるとも言えるのだ。
       貴族連盟は、臣民であるはずの魔術士が、その能力を後ろ盾に台頭してくることを恐れている。それゆえ、できるかぎり魔術
       士達を分断して統治しようとしているのだ。
       その証拠に、貴族連盟は《霧の滝》や《十三使徒》を抱えており、《牙の塔》で学ぶ黒魔術士達でさえ、宮廷魔術士になるこ
       とに憧れていることが挙げられる。
       ここから分かることは、教会やドラゴン達と異なり、貴族連盟は魔術士達の存在自体を認めていないのではなく、ただ強力な
       能力を持つ集団が自分達の管理下にないこと、それのみを危惧しているということだ。
       具体的には、大人数の魔術士による集団行動を協約により禁じたり、
  ・ キムラック
       特に記述がなされているわけではないが、教会と貴族連盟もそう友好関係を深めているとは思えない。
       現にキムラック教会は王室令に背いて拳銃の製造を行っているし、貴族連盟に対してカミスンダ劇場の存在を秘匿してい
       た。
       このあたりの詳しいことは、次のキムラック編で語られることを期待している。
  関連事項

  ・ 《霧の滝》

 世界図塔

  天人による大陸最大の遺産

    《牙の塔》と呼ばれるものは三つある。その中で、最も直感的に《牙の塔》にふさわしいのが、この世界図塔である。
    これは、天人/ウィールド・ドラゴン=ノルニルが、魔術士のために築き上げたものである。大陸に残っているものとしては唯一、ノ
    ルニルたちが人間のためだけに造ったものだ。もっとも、大陸以外にそんなものがあるとは思えないので、世界で唯一、と言い換
    えたいところだが。
    また、人類が目にすることにできる最大の遺跡でもある。
    なお、現在この世界図塔の所有権を持っているのは貴族連盟である。
  世界図塔の外見

    その形は、牙の名称通り、先端の曲がった円錐形をしている。色ももちろん白。この世界図塔を中心としてタフレム市が広がって
    いる。
    外見から分かることは、世界図塔は石を積んで造られたものではなく、一枚岩から削り出されたものらしいということ。入り口はひと
    つだけで、窓は空気穴すらない。今はその唯一の出入り口も封鎖されていて、常時《塔》の黒魔術士が監視してる状況だ。
  世界図塔の真の存在理由

    塔は強力な魔術の装置として建造された。天人らは二百年前、これを用いて強大な魔術を行った。
    膨大な労力と代償、生贄まで用いたと言われるその儀式魔術の目的は、たった一冊の本を召喚することだった。
    すなわち、世界書を。
    それには世界の秘密が記してあると言われ、その著者は万物の覇王スウェーデンボリーであると言う。そして天人たちはその内容
    に、人間たちに自ずと気づいてもらいたかったのだ、とアザリーは語った。
    そしてその召喚から百年以上が過ぎ、砂の戦争により世界書は世界図塔から持ち去られることになる。
  関連事項

  ・ 《牙の塔》
  ・ 世界書
  ・ タフレム市

 世界書

  世界書の召喚

    ウィールド・ドラゴン/天人らは二百年前、世界図塔を用いて強大な魔術を行った。
    膨大な労力と代償、生贄まで用いたと言われるその儀式魔術の目的は、たった一冊の本を召喚することだった。
    すなわち、世界書を。
    その著者は万物の覇王スウェーデンボリーであると言う。
    天人達は、人間の祖先にこう言い残す。『世界に疑問を持ったならば塔をのぞけ』と。
    そして、この本を巡り多くの血が流れることになる。
  世界書の所在は

    元々、世界書は召喚された世界図塔に保管されていたのだろう。天人達との戦いによってタフレム市が完全に破壊された後も、
    この世界図塔の中に世界書はあった。
    後の魔術士達の中にもこれを読んだ者がいるかもしれないが、やがて貴族連盟により立ち入りが禁止される。
    そして召喚から百年以上が過ぎ、砂の戦争により世界書は世界図塔から持ち去られることになる。
    そしてその後三十年ほどは、キムラック教師長の最名門ブラウニング家に保管されることになる。これが、作品中で世界書が『ブラ
    ウニング家の世界書』と呼ばれたいた理由である。
    しかし、このブラウニング家の聖宝はその価値も知らない名もない盗賊によって、キムラックを離れる。なんにせよそれから数年間
    の間の世界書の所有者達は知られていない。
    そして、1〜6巻の時点から六年前に、タフレム市のドラゴン信仰者の手にわたることになる。彼らは世界書の意味を少なくとも上の
    盗賊よりは理解していたようだが、6巻の時点ですでにチャイルドマンの手に渡っていたことが判明する。
    そして、チャイルドマン宅でマジクがこれを『偶然』手にする。
    これを知ったオーフェンは、世界書を狙うウォール教室の暗殺者達、そしてアザリーを欺くためにボルカン・ドーチンの地人の兄
    弟にこの世界書を託す。
    こうして現在までの歴史でも、最もその価値を知らない者達の手に渡った世界書も、カミスンダ劇場で彼らに接触したアザリーによ
    り、奪取される。
    8巻で、この世界書を手にしていたアザリーによって、焼却される。太古の天人の想い、イスターシバの涙は伝わったのだろうか。
  世界書・その内容

    世界書を開くと、少し崩してあるとか修辞法であるとかの生易しいことではなく、見たこともない文字が数ページもずらりと並んでい
    ることもあれば、まるきり意味の取れない文法が頻出する。キエサルヒマに住む人間にとっては、よく似てはいるが異なる言語と感
    じられる。
    内容はどこかの土地の風土記、というよりは戦記に近い。その土地の解説であるらしい部分のほか、文面には『移行』とか『異変』
    だとかいった単語が目立った。そして一番多く使われているように思えるのが『変化』だった(マジクによる)。
    著者たるスウェーデンボリーは、『巨人の大陸(ヨーツンヘイム)』に起こったなにかの大異変あるいは大災厄について、延々つづ
    っている。戦争のようなことも書いてあり、ドラゴン種族、人間に加え、神々も登場する。
    世界書は、神々の世界の歴史書なのだ。それゆえ、どこにでもある終末の予言とは違い、人々に対する警鐘もなければ、訓示が
    あるわけでもない。ただ淡々と、すでに起こってしまった、そして今も進行中の破壊について述べているだけである。
    この世界書には、世界の秘密が記されているとされているが、その全貌はいまだ謎である。
    その受け止め方は多様で、ウォール・カーレンはこの本を神の万能なる力、魔法への鍵となると考えた。
    この本を召喚した天人たちは、人間達にはこの内容に自ずと気づいてもらいたかったのだ、とアザリーは語っている。
  抜粋

  ・ vol.4/p277
    「偉大なる心臓……ドラゴン──偽者の。唯一の真なるものは……あれ?」
    『後継者は誰だ?』
  ・ vol.5/p32
    『巨人の大陸(ヨーツンヘイム)の崩壊』
    「巨人の大陸って……神様の国のことだよな?」
    『旅立ったドラゴン種族たち。
     わたしが見上げるのは大空を埋め尽くす積悪の群れだ──
     何者の咎であるのか、それを論じる卓につくのは既に神々ではない。
     もはや三人の姉妹ですらないそれと、わたしはわずかながら会話した。
     そも彼女らの存在自体がシステムの劇的な変化を物語っているのだ。
     わたしがかつて見いだしたシステムは、この変化によって崩壊している。
     簡単な引き算が全てを決定的にずらしてしまった。
     この世界は変異して行くだろうが、その行き先は分からない。
     変化は激化して行くだろう。それは避けられない。最悪なのは、それが永遠に激化していくであろうということだ……』
    『それが永遠に激化していく──』
  関連事項

  ・ 世界図塔
  ・ ウィールド・ドラゴン=ノルニル

 万物の覇王スウェーデンボリー

  魔王の名の由来

    神話では、ドラゴン種族が、神々から魔法の被義を盗み出したという。
    だが、ドラゴン種族らに秘儀を盗まれなかった神がいる。それが万物の覇王、スウェーデンボリーだ。
    彼はほかの神々に戦いを仕掛け、自らが唯一神として君臨しようと画策し、魔王と呼ばれるようになった。これがキエサルヒマで典
    型的なスウェーデンボリー像である。
    国教たるキムラック教会ではこの魔王の名前を忌諱している。彼らが崇める運命の三女神をも滅ぼそうとしているからだ。
    だが、この魔王像は間違っているらしい。特に、彼が神々に戦を仕掛けた理由が唯一神にならんとしたためではないことは、確実
    だろう。
    外見上の特徴……などというものに意味があるのかどうかは分からないが、カミスンダ地下劇場で魔王を演じた人形は細い、つり
    上がったまぶたと、信じられないほど深い色の蒼き瞳を持っていた。
    天使と悪魔を従えた、万物を制覇する魔法使いスウェーデンボリー。時間を呼吸し夜空を食らって飢えをしのぐ。アザリーのセリ
    フである。
  天使と悪魔

    キエサルヒマ大陸で唯一、カミスンダ劇場にのみ、二の腕から先が翼になっている女の像と、頭が牛になっている逆立ちした男の
    像の、一対の像が置かれている。
    これが、スウェーデンボリーの天使と悪魔の像である。
    スウェーデンボリーはキムラック教会から禁忌とされているので、当然その配下たる彼らも、像を作るだけで教会から睨まれること
    になる。
    戯曲『魔王』の内容を信じるならば、彼らは神々をも超える力を持っていることになるが、劇中のスウェーデンボリーとウィールド・シ
    スターズが「本来の」状態でなかったことは疑いないので、公平な比較とは言い難いが。
  関連事項

  ・ 戯曲『魔王』

 戯曲『魔王』

  戯曲『魔王』とは

    これは神々の一員たるスウェーデンボリーが神々に対して戦いを挑んだ理由についてなどが語られている。
    スウェーデンボリー自身が記した世界書と同様に、神々を考える上で重要な資料である。
    天人達は未来を奪われていた。現在は魔術を扱えても、いつか必ず消失する。そういった呪いだ。
    そしてそれは、人間の魔術士にも訪れることである。それを警告する為に、彼女らはカミスンダ劇場を造り、戯曲『魔王』を演じさ
    せたのだ。
    この事実を魔術士達に伝えなければならない。だが、人間には知られてはならない。さらに、魔術士のみに伝えるべきことがある、
    というこの事実すらも人間には知られてはならないのだ。
    天人たちはこのカミスンダ劇場を造った後に力尽きることになる。
  カミスンダ劇場

    天人達が二百年前に、人間の魔術士に戯曲『魔王』を観せる為に建造した歴史的な建造物。
    当時の王も招かれ、戯曲『魔王』を鑑賞した。これは地上の舞台で、人間が演じたのではないかと考えるが、詳細は不明。大体、
    この劇場を天人が造ったのだ、と言うことは現在では知られておらず、当時も知られていたかどうかは疑問である。
    なんにせよ、王が招かれた日が最後の公演だった。戯曲の内容が魔王賛歌であったため王はこの劇場の存在を危険視し、この
    劇場の関係者の処刑、そして劇場の取り壊しを命じたからだ。
    しかし、王は取り壊しの手はずをキムラック教会に託したため、その後教会の手により貴族連盟に対して隠匿され、教会はそれ以
    後、劇場を定期的に探索していた。
    ロビーはかなり広く作られていて、左右に二十メートルほど。奥行きはそれより浅く、十四、五メートルほどである。内装はあまり凝
    ってはいないが、金はかかっていそうだった。全体的に木造。右手に受付のようなカウンターがある。ロビーから奥には扉も通路も
    なく、ただ中央に、二階へと続く大きな階段が構えていた。踊り場に、その階段をはさむようにしてスウェーデンボリーの天使と悪
    魔の彫像が立っている。
    この劇場には地下の舞台が存在し、そこでは天人達の人形が戯曲『魔王』を観せる為、観る資格のある者をいつまでも待ち続け
    ている。
    ちなみに、マジクには『魔王』を観る資格があり、オーフェンにはないようだ。それが人間を連れてきた為なのか、彼自身元々
    資格を持っていなかったのかは不明。個人的には魔術士すべてが対象ではないように思うのだが。
  戯曲『魔王』の内容

    vol.7/p224
     ──つまり、変わってしまった、わけだな?
     ええ。
     ……聞こえて来た声は、男のものと、女のもの──
     若さは感じない。齢を重ねた響きもない。
     ただ時において不変の輝きを湛えているくせに、しかしなんらかの変化を迎えてしまったものの声。
     その変化を話題にしている。
     ついでに言えば──それらは、五感として捉えた感覚ではなかった。
     誰かが説明してくれたのだ。恐らくは、あの光の文字が。
    「わたしは残念だよ」
     床は円卓の北側から、そうつぶやく。円卓は広大で──端までが霞んで見えるほどに広い。その円卓には、もうひとり、女がい
    る。男の、ちょうど向かい側。
     離れすぎているため、女の顔は見えない。といって、男の顔が見えるわけでもないが。
    「原因は分かっているわ」
    「彼らだな。だがその責を彼らに取らせると?」
    「責ではないわ」
     女の声には、確信に満ちたものがある。感情をすべて超越した、時折女が──というより女親が覗かせるような、そんな根拠のな
    い自信。
    「ただ、わたしもあなたと同じよ。この洪水を止めたいだけ」
    「どうやって?」
    「大多数の者が考えているのと同じ方法でよ」
    「君お得意の大怪獣(バジリコック)かな?」
     彼らの言葉は、明らかに未知の言語である──が、もちろん、その意味は明確に理解できた。できなければ、ここにこうしている
    意味もないわけだから。
    「それも使います。あなたの天使と悪魔を貸してほしいのだけど?」
    「それは無理だな」
     男は鼻で笑ったようだった。
    「君も知っているだろう──そう、お互いに知らないことなどあるわけがないな。我々はすべてを知っている、いや知っていた。仮
    に我らにとってすら未知であるものがあるとすれば、あの天使と悪魔こそそうだろうな。あれらはわたしよりも強大だ。貸す、などと
    冗談にもならん。第一、あれらが承知せんさ」
    「魔法(システム)の崩壊は、あなたにも無関係ではないのよ」
    「当たり前だ。君と話をしている、これ自体が大問題だな。だが問題の解決に関するわたしの考えは、君らとは大きく違ってい
    る……」
    「わたしはバジリコックも使うわ。ヴァンパイアも、そして──」
    「ドラゴンも、か」
    「ええ」
    「あれは、君にとっての天使と悪魔だ──手に余るのではないかな?」
    「世界の崩壊こそが天使と悪魔よ」
     女は鋼の強さを思わせる口調で言い切った。
    「わたしは追うわ。彼らをね。世界を崩壊させ、わたしたちを産み出した彼らを……」
    「彼らユグドラシル・ユニットはみな狡猾だ。この脳と言う肉塊を持ってからまだ日が浅い我々などより、遥かにな」
    「日が浅いのは、わたしたちだけでしょう。あなたは──」
    「ああ。だが、わたしが以前、肉体を持っていたのはほんの三十二年間だけだ。信じられるか? そんな一瞬の間に、わたしは人
    生とはなにかと思索したこともあるのだ……」
    「感傷は崩壊を早めるわよ。わたしも、あなたも注意しないとね」
     女はそれだけを冷たく言うと、静かに席を立った。
    「もう行きます」
    「止めはせんよ。いずれ、殺しにいくが」
    「やはり……」
     と、女は苦しげな声を出した。
    「あなたは、それを考えていたのね」
    「仕方あるまい。わたしにでき得る中では、それが最善だ」
     男の声には悪びれた調子も、特に言われたほどの感傷があったわけでもない──ただ仕方ないと告げたそのせりふが示す通り
    だった。ただその通り、男は仕方ないと思っているのだ。
    「さようなら、スウェーデンボリー」
    「ではさらばだ、過去か……未来か誰かは知らないが。運命の女よ」
     円卓はただ広い。
     そのどこにいるのか、自分でも分からないが──どこにいたところで、その男と女の顔は霞んでいて見えない。ただ声だけは聞こ
    えてきていた。
     ただ見ていた。そして、それが──
     真の戯曲『魔王』なのだと気づいたとき、光が消えた。
  関連事項

  ・ スウェーデンボリー

 

 

 トトカンタ市

  商都トトカンタ

    規模も大きく、大陸四大都市に数えられる商都。
    旧王都アレンハタムから現王都への遷都の際、その資本の大半が、当時ただの荒れ地に過ぎなかった東部への移転というリスク
    から、西部に留まった。それが結局、この街の基となった。
    大陸の西部に位置し、フェンリルの森を北に、マスマテュリアを南に臨む。
    商業が盛んであり、治安も良い。
    また、東部や北部から離れているためか、魔術士の地位は低くない。
    地下水流を利用した下水道もあり、発電機の建造の話も持ち上がっているらしい。
  気候

    慢性的な水不足に悩んでいる。
    「六月のトトカンタは、さっぱりと乾燥し、そのくせ緑の匂いが濃い」という表現がある。この季節は、東の季節風が吹くという。
  周囲の地形

    トトカンタ市から西に十キロほど、アイーデン山脈と呼ばれる高地がある。健脚な者なら半日もかければ横断できてしまう程度のち
    っぽけなものだが、一部にだけ極端に標高のある場所もあり、山脈という呼び名が定着していた。
    東には、大スカイミラー湖がある。
  交通

    トトカンタ市から北方に抜ける大きな街道はこのステアウェイ街道しかない。夏はこの街道は細長い宝石のようなものだ、とよく言わ
    れる。
  マスル水道

    マスル水道は、トトカンタ市を縦横に走る水路である。かつては文字通り水道であったこの人工川は、地下を走る上下水道が完
    備された時点で役割を失った。
    というわけで現在では、暇な大人が散歩をするやら、暇な学生が釣りをするやら、暇な少年がキャッチボールをするやら、暇な子
    供が水遊びをするやらに利用されている。つまるところ忙しければ見向き模されないわけで、結局、川の中に人の姿を見ることな
    どまれであった。
    また、地人の兄弟が住み着いていたとか、いないとか……。
    その頃、マスル水道近辺の街道は、人通りが途絶えていたらしい。
    たかが、時々思い出したように魔術で爆破されたりする程度の、安全な道だと言うのに。
  市内の街道

    トトカンタ市には、四十八人の初代議員らの名前を冠した大通りがある。トトカンタ市を縦横に二十四本ずつ平行に並んでいる(と
    思われる)。
    このうち、ハーサン・ストリートはそれらの中で最も開けた街道だといわれている。いわゆる商店街とも少し違うが、店舗は実際かな
    り立ち並んでいる。ほかにも図書館などの市営施設もあり、そして、劇場(シアター)などもあったりする。
    また、ペイサンからピュルモンまでの七本のストリートと、あと無数の路地からなる街並みが、ここ裏路地街と呼ばれる界隈である。
    人口密度は高いくせに、夜中になれば妙に暗い。街灯が少ないせいもあるのだが、建物の造りとして、あまり窓を大きくしていない
    ということもある。最近ポチョムキンが現れたのは、ペイサンストリート。
    追いはぎなどの危険性は、二十数年前、市街警察が路上管理部隊の結成を高らかに宣伝して以来、ほぼなくなったと言って
    いい。にもかかわらず未だに夜中の裏路地街を出歩く市民の姿がないというのは、それ以前の裏路地街の惨状を物語っていた。バ
    グアップズ・インがあるのも、この界隈。
    『城の街道』と呼ばれる、学生寮や、それに住み込む人間をあてにした商店などが並ぶ界隈もあるが、上の四十八本のストリートと
    の関係は不明。
  その他

    トトカンタには都市盗賊も多い。巧妙に法の盲点を突くような詐欺じみた商売や、単純に物乞いの組合を組織したりもしている。そ
    の摘発は極めて難しい。
    トトカンタの、山の手の一角は、高級住宅街が立ち並ぶ区域とはまた違い、もっと大規模なオフィスビルが林立するところである。
    大規模といっても建物の背の高さのことではなく、経済的な規模ということだが。
    トトカンタの中央広場の中央には、『希望』と名付けられた杖を持った三メートルほどの背丈の老人の像がある。
    トラック一周千メートルもあるような市営の広場もあり、市街警察の春の運動会などが催される。
    その運動会のスローガンにもなっているが、年に一回のその競技会によって、警察官の体力レベルの向上に貢献しようという意図
    らしい。
    が、現状を見たところ、逆効果にしかなっていないように見えるが……。

 アレンハタム市

  古都アレンハタム

    「水と人の都市」「歴史との邂逅点」というキャッチフレーズはアレンハタム市を良く表している。
    キエサルヒマ大陸の人間領を代表する四大都市の一つであり、古都アレンハタムとも呼ばれる。
    面積の半分は無人の遺跡とは言え、大陸最大の街のひとつであるし、人口の三割は観光客であっても、トトカンタ以上の人口を
    誇る。
    二百年以上前は、ここが王都だった。
    街の中央には運河が流れ、無数の商船や小船が往来するその光景は、大陸でも有数の景観である。中心街──元貴族街の、
    さらに中心には昔の王城が建っている。
    現在では城は民間に開け放たれ、博物館兼図書館になっている。
    この市の収入はもっぱら観光に頼っているとか。実際、歴史あるこの街には毎年数十万からなる観光客が訪れる。
  アレンハタムとウィールド・ドラゴン

    このアレンハタム市は、天人たちが造ったという。
    しかもここは、神の遣わした魔獣といわれるバジリコックに対抗するための砦として造られた場所であった。その戦いの中で、砦は
    破壊され、周囲一帯は砂漠と化した。
    そしてついに今から千年前、天人たちはバジリコックを殺すことに成功した。
    その後天人たちがしたことは、ここを居住に適した環境に造り直すことだった。彼女らは魔術を用いて砂漠と化した土地を癒し、こ
    こに運河を引き入れた。やがてここに街ができて……それはアレンハタムと呼ばれるようになった。
    これが、この街の始まりと言われる。
    キエサルヒマ大陸に人間の祖先が移り住むのは、この後のことだ。
    そして、約百年後、天人たちは姿を消した。
    現在では、老若男女の観光客たちが、この街の数々の歴史を見、おおむね感激し、満足したところで、土産物の高価さに面食ら
    って落胆している。
    また、このような背景から、ドラゴン信仰が盛んである。
    そして、当然魔術士の地位は極めて低いものとなっている。
  街の様子

    この一大観光都市の入り口にある広場は、さすがに美麗なもので、さまざまな種類のさまざまな人間たちが集まっている。
    数十種類もの色レンガでつくられた石畳のモザイクは、なにを模しているのか一目では分からなかったが、なにかの幾何学的な紋
    様が鮮やかに広がっている。紋様の中心に噴水があり、それはどうやら巨大な一枚岩を削り出してつくった物らしい。高さ三メート
    ルほどのとがった岩のてっぺんに、大口を開けて咆哮する姿勢で、胴よりも長いたてがみを持った勇壮な獅子の像がそびえてい
    る。水はその獅子の胴体から流れ出ているようでいて、少し見ただけではどこが水の噴水口なのか見分けがつかないようになって
    いた。
    街の出口に近い宿はたいてい陸路で物を運ぶ人足向けのものが多いし、専属の契約でもしていないかぎり、普通の旅行者が泊ま
    れることは滅多にない。旅行者向けの宿が建ち並ぶあたりに着くまでは、二十分ほど歩かなければならないようだ。
    この街には背の高い建物が多い。特に街の南方を占める居住区は、五階から六階あるようなアパートメントが立ち並び、町の中心
    からそちらの方向をちらりと見るだけで、空に向かってのっぺりとそびえるレンガ色の四角い影が見えるほどだ。

 キムラック市

  北の教会総本山──キムラック

    大陸全土の教会を掌握する、巨大な聖都。大陸の北端にあり、王都に次ぐ巨大都市でもある。
    十キロほど北に行けば海に面した断崖に突き当たり、十数キロ東にレジボーンから流れている川がある。もっぱら生活用水はそこ
    から得ているらしい。ゲイト・ロックと呼ばれる周囲の土地は黄色く乾いた荒れ地であり、常に黄塵を含んだ風が吹き荒れている。
    この砂の風は、二百年前からこの土地に吹いていると言われ、長期間にわたって吸っていると、人間も病気にかかることがある。キ
    ムラックの風土病の黄病である。この砂の風のためか、決して枯れていないはずのこの地、ゲイト・ロックで作物が育つことはない。
    大陸すべてのキムラック教会は、すべてこの教会総本山都市に帰属している。すべての教えが、ここから発せられている。教主ラ
    モニロックの名において宣言された、キムラック教会発祥の地、約束の土地、そして聖地である。
  キムラック市の中心/キムラック教会の中枢・ユグドラシル神殿

    すべてのキムラック教会の中枢となるのが、ユグドラシル神殿である。
    街の中心にある白く巨大な神殿で、城よりも大きく、優に街の数区画分を占領して鎮座している。この神殿は、それ自体がひとつ
    の石碑のような形をしている。
    ユグドラシルとは、キムラック教会の崇める運命の三女神が住まうとされている、神界の名。キムラック教会の中心である。
    その内部へは、ノルニルの転移装置でも転移することができない。
  《学びの壁》の内/真のキムラック市・神殿街

    街の外観は内と外で完全に分離されており、その景観を目玉焼きに喩える者もいる。直径百キロほどの目玉焼きである。
    そしてその周囲を、きらびやかな街並みが囲んでいる。ここは中心街と呼ばれ、俗に、神殿街とも呼ばれている。
    また、この街には上下水道はなく、普段の生活も教会の教えが行き届いていることから、秩序あるもののようだ。
    もっとも、神殿街では、だが。
  《学びの壁》の外/選ばれざるものたちの街・外輪街

    この中心街と《学びの壁》で区切られたキムラックであってキムラックでない場所、スラムとなっている外輪街がある。《学びの壁》を
    ぐるりと囲んで、街の外へだらだらと広がっている感じである。
    この《学びの壁》の境界線は絶対であり、街の人間といえどもこれを越えることは許されない。ごく限られた人間(商人など)だけが、
    この街に短期間だけ入ることが許され、もっと限られた人間(死の教師のみ)がこの街から外へ出る権利を持っている。
    その理由は単純で、遺伝する魔術士の素養を締め出すためである。これを、教会の人間は良き血のため、と称している。

 タフレム市

  《牙の塔》都市タフレム

    《牙の塔》がある、キエサルヒマ大陸でただひとつ、黒魔術士たちが心安く暮らすことを許された場所。
    西を山岳地、東を《森》を水源とする人口湖にはさまれ、中央に白亜の世界図塔を戴いた《牙の塔》都市。
    王都は大陸の反対側。
    人口は、トトカンタ市の三分の一といったところ。
    特に産業はないが人の出入りが激しいので、それなりに潤っている。
    ちなみに、結婚制度がない。
  タフレム市の歴史

    タフレム市は今までで三度滅びた。伝説ではそう言われている。
    そのうち記録に残っている“崩壊”は二度だけだ。人間とウィールド・ドラゴン種族とが対立したときに一度──キムラック教会と魔
    術士たちの破局、砂の戦争と呼ばれた戦火により、もう一度。
    だが二百年のうちに二度も全壊したにもかかわらず、市街は整然と大地に根を下ろしている。むしろ計画的に築かれた街は、きら
    びやかにデコレートされた菓子のように美しかった。
    黒魔術士たちが勤勉に歴史を記録し続けたおかげで、過去の記述にありがちな『空白の記述』がない。
    今ではもう、このタフレム市にちょっかいをかけてくるような軍隊はないという。
    天人はもうこの世になく、教会は王都の貴族連盟に軍隊を取り上げられた。
    その貴族連盟も、大陸の反対側にあるこの街まで遠征するほどの行動を起こしたりはしないだろう、というのが一般の意見である。
    なお、一番最初に造られたタフレム市を旧々タフレム市、その後ノルニルによって完全に破壊されたものを建造し直したものが旧
    タフレム市、砂の戦争以後の現在の街が、現タフレム市と呼んで区別するときがある。
  中央に対する立場

    タフレム市は大陸の中でも有数の都市である。だが、そのことを自覚するものは少ない。ここが魔術士の街だからである、と言うも
    のもいる。
    それは極端な判断だとしても、中央がこの街を正当に評価したがらないのは確かであるようだ。貴族連盟は、黒魔術士が力を持
    っているってことを公には認めない。対外威信のようなものがあるからだと言う。
    もともと大陸東部の人間は、西部を下に見る傾向があり、いまだこのあたりは荒野にテントで暮らしているんだとしか思ってない人も
    いるという。
  ドラゴン信仰とタフレム市

    この街には、天人、ウィールド・ドラゴン=ノルニルの建造物がある。それを偶像に奉るドラゴン信仰者たちがいる。
    なにしろ、大陸に残っているものとしては唯一、ノルニルたちが人間のためだけに造ったものであるし、タフレム市法では信教の
    自由は認められているため、この黒魔術士たちの街タフレムにもドラゴン信仰者たちが存在できるのだ。
    ちなみに、崇めているものがドラゴンだろうと魔王スウェーデンボリーだろうと、はたまた運命の三女神(ウィールド・シスターズ)でも
    特に咎められることはなく、この街にもキムラック教会はある。
    ドラゴン信仰者たちはすべて、白い頭巾のようなものを目深にかぶっている。これは、このタフレム市のドラゴン信仰者の特徴で、
    つまり顔を隠して参加することができるというわけだ。
    なお、アザリーとウォール教室によって名高い『聖域の集い』会は壊滅。この名高いが本当なのか、皮肉なのかは判然としないが。
  迷宮街路

    迷宮街路と呼ばれる一角がある。
    街の中央を建てなおす際、建設者たちの仮住まいが設えられていた区域である。
    街道から分かれる路地のひとつに至るまで計画の上で建設されたタフレム市だが、戸籍受付の終了間近になって、予想された人
    口よりも多くの人数が都市居住を求めていることが分かった。結局、そのときまで都市計画の中に入っていなかったこの区域を、
    周囲よりも建物が密集した形で設計することでつじつまを合わせたものの、土地面積の無理な利用が、入り組んだ路地街を生み
    出すこととなったのだ。
    よく整理されたタフレム市の中にあって、例外的にスラム化しているようだ。
  街の様子

    どの街でも、街門に近いあたりは一番見栄えがするように築いてあるものだが、歴史の都合上何度も築きなおされたタフレム市
    は、それがかなり顕著だった。
    シティガードのチェックを終えて門をくぐると、そこから道が放射状に伸びている。街並みは、主にレンガで築かれ、背の高い建物
    などはさほどない。民間の住居はほとんどがアパート街で、下水道が完備されていて、マンホールがちらちらと道に見えた。市の
    入り口には、例えばアレンハタムのような噴水や広場はないが、道はかなり広い。
    街に中央には、空にそびえる白亜の塔が建っている。やや右に傾いた、曲がった塔──街の象徴たる世界図塔である。
    公園が多いというのもこの街の特徴だが、これは人口密度がさほど高くないからである。土地が余っているのだ──無論これは、
    過去二回も戦争で都市が全壊したという理由もある。数十年前の砂の戦争の際、直接的な戦禍にあった人間は少なかったが、そ
    のまま都市から去っていったものは多かった。
    もう街は完全に復興し、街のどこにも破壊の痕跡は見当たらい。街路樹ですら、焼け跡に植樹されたという気配はない。
    馬車は右側通行らしい。
    上級魔術士の家々が並ぶ、《塔》の別館と呼ばれる界隈がある。チャイルドマンの屋敷があるのも、このあたりだった。
    ちなみにレティシャの屋敷の敷地があるのは、タフレム市のにぎやかな繁華街からだいぶ離れたところである。

 キンクホール

  《森》とアレンハタムの間の村

    人間の役所では、市壁の内側に存在するものでなければ、どれだけの規模があろうとも『街』とは認めないことになっているらし
    い。
    だが、このキンクホールは、村というよりは街と呼んだほうが適当なほどの大きさを持っている。
    全体の雰囲気は、都市近郊の郊外といった風情である。
    実際にここは、アレンハタムと百キロとはなれていない。
    キンクホールの宿から遠くにアイーデン山脈が見えることからも、トトカンタ付近までの間に大きな山脈等はないようだ。
  村の様子

    広場は村のほぼ中心に位置していて、古くなった教会の真ん前にある。広場から蜘蛛の糸のようにまばらに伸びた細い小道が、
    あちこちに点在する家々へと続いている。
    ただただ広がる麦畑は、夕日を浴びて、まるで刈り入れどきのような黄金色に染まっていた。
    立派な門構えの瀟洒な屋敷や、こぎれいに掃除されていそうな小さな学校、中央から辺境村の治安維持の任を授かってきた派遣
    官の詰め所や、小さな農場なども見える。
    キンクホールに宿は一件しかない。そもそも街道からわずかに外れたこの村には、さしたる特産品もなく、ここを目的地として訪れ
    る旅人も少ない。
    村唯一のこの宿は、見たかぎりではほとんど民家と大差はなかった。もとは、アレンハタムのちょっとした名士が気まぐれに郊外に
    住もうと決め込んで建てた屋敷を少し改装したものとかで、居心地は悪そうには見えない。
    また、村外れには幽霊屋敷もある。かつて、奇妙な魔術士が住んでいた館だ。
  《塔》を追放された魔術士──フォノゴロス

    フォノゴロスという有名な魔術士がひとり、五十年ほど前からキンクホールに隠棲していた。
    彼は突拍子もない研究に取り憑かれていたため、《塔》を追放されたのだ。
    そして、彼はこの村で人知れず研究を続けた。人間以上の生物を作り出す研究を。
    現在宿になっている屋敷の持ち主は、村外れで変死した。
    それはこの魔術士に殺されたのだという風聞になっていた。それは、根拠のない噂と言い切ることはできないだろう。

 

 

 ウィールド・ドラゴン種族:ノルニル

  特徴

    ウィールド・ドラゴン種族は魔女、または天人(ノルニル)と呼ばれる。
    ノルニルは創造と管理を司るとされる。
    人間達はから『古代の魔術士』と呼ばれたりもする、半神半人の存在。
    女性だけの種族だったと伝説にはある。
    瞳が鮮やかな緑色であること以外は、外見は人間とほとんど変わるところがなかった。
    人間と近い種族であるらしく、両者の間には交配が可能。
    現在キエサルヒマ大陸にいる人間の魔術士には、必ず彼女らの血が流れている。
    天人はもともと人数が少ないうえに少産であったらしく、現在大陸にノルニルが見られない原因の一つになっていると考えられる。
  使用魔術

    天人が扱う魔術は文字を媒体にする。
    声を使わないところから、沈黙魔術(ウィルド)とも呼ばれている。
    文字は書き残すことができるし、金属に掘り込むこともでき、その効果は時に永続することもある。
    しかも、言葉で魔術の構成を編み上げるよりも、はるかに複雑かつ整頓された構成を編むことができるので、極めて強力である。
    過去、数知れない人間の魔術士たちが遺産の力を我が物にしようとし、失敗してきた。
    魔術文字を用いた物の実例としては、1巻から何度か登場したバルトアンデルスの剣や、アザリーの好んで使う瞬間転移を可能に
    する小箱、2巻などに登場した殺人人形(キリングドール)などがある。
    このように、彼女らは、強大な魔術の力を持っていた。だが、それは未来には必ず失われる──そういった呪いも同時に背負っ
    ていたのだ。そして、彼女らはその運命が人間の魔術士にも起こることを教えるためにカミスンダ劇場を造り、人形達に戯曲『魔
    王』を演じさせた。
    しかし、人間に知られてはならないという。
    これは、魔術士が人間とは違う(少なくとも天人達はそう考えていた)証拠である。
  歴史

    キエサルヒマ大陸に逃れてきた天人は、アレンハタムを運河と共に千年も昔に築き上げたとされる。
    そこに人間達の祖先が招き入れられたのが数百年前である。
    両者には友好関係が築き上げられ、その協力関係は永遠に続くかとも思われた。
    力なき人間達は強い天人に憧れ、それはいつしか信仰に変わり、かつて神々の『魔法』をドラゴンたちが『魔術』として盗んだよう
    に、人間達は天人から混血という形で魔術を盗んだ。
    その行為に天人は戦慄し、人間の魔術士をすべて地上から抹殺しようとした。
    どうして彼女らがそこまで人間の魔術士を恐れたのか、その理由は分からない。
    だが結果として、アレンハタムを中心に魔術士狩りは一世紀近くも続いた。
    やがて、天人は二百から三百年前に忽然と地上から姿を消した。
    そして時と共に魔術士狩りの気風も下火になり、今では表立って魔術士を誹謗するような者もいない。
    が、現在のドラゴン信仰の中には、言外に人間の魔術士の存在を非難するような箇所も目立つ。
    つまり、人間の魔術士の存在が、ノルニルを失望させ、失踪させたのだと。
    ただし、このあたりの事情は真実と異なる公算が高く、確実なのは一説としてこのような解釈があるということだけである。
  関連事項

  ・ 世界図塔
  ・ 戯曲『魔王』

 ディープ・ドラゴン種族:フェンリル

  特徴

    人間が出会った場合、危険なドラゴン種族は二種類あるといわれている。
    最悪なのがミスト・ドラゴン。そして、最悪を通り越してもうどうしようもないのが、魔術に長けたディープ・ドラゴンである。
    ディープ・ドラゴン種族は深淵の森狼(フェンリル)と呼ばれる。
    戦士たちの故郷(ヴァルハラ)とも《フェンリルの森》とも呼ばれる、巨大な樹海にに住む。
    フェンリルは《森》を守護し、効果的に敵を排除する。
    皮膚から分泌される脂のせいで濡れたような漆黒の毛並みを持ち、頭までの高さが三、四メートルにも達する。
    ディープ・ドラゴンは決して言葉を使わず、テレパシーに近いコミュニケーションをとっているらしい。
    また、食事を取る必要もないようだ。
    その巨体ゆえ普段は水中に暮らすが、別に地上にいてもなんら不都合はない。むしろ地上にいるときのほうが攻撃性が増すくらい
    である。
    彼らは言語を持たないが、太古より声を持たなかったわけではない。彼らは何か(存在の意味?)の代償に、言葉、そして言語と文
    字を失ったのだろう。
  使用魔術

    フェンリルの用いる魔術は暗黒魔術と呼ばれ、精神を支配する術だといわれている。
    それだけなら人間の白魔術も同じだが、決定的な違いは、フェンリルのそれは生物だけでなく非生物にまで作用してしまうことで
    ある。
    つまり、森の木々はもちろん、土や大気、水、果ては空間にまで精神支配が及んでしまうのだ。
    フェンリルの暗黒魔術は、死んだ生物を蘇生させることすら可能だが、さすがに死んだ直後にしか効かないらしい。
    ディープ・ドラゴンの魔術は、視線を用いる。
    また、強力な精神支配により、人間を五感をも共有する生物、使い魔として用いることもある。
  歴史

    フェンリルがキエサルヒマ大陸に現れてから、どのような経緯があって《フェンリルの森》を守護するようになったのかは分からない
    が、彼らは“聖域”を守っているらしい。
    「《森》の最聖域に立ち入ろうと画策したものたちは、滅ぼさねばならぬ」そうだ。
    以下は、《森》のディープ・ドラゴン、アスラリエルのセリフである。
       《この通りだよ、人間の魔術士よ……その子のように、我らは支配されれば、従わねばならぬ……》
       《我らの戦士の力とは、そうした代償の上に得たものだ。それは王も女王も同じ……人間の魔術士よ。汝らはそうした価値を
       失ったと同時、自由をも得た……》
       《その自由は、管理できない……なればこそ危険なのだ。我らは、汝らを滅ぼすだろう。我ら種族は、この大陸を護らねばな
      らぬ……》

 ミスト・ドラゴン種族:トロール

  ミスト・ドラゴン種族の姿・外見的特徴

    その姿を一言で表すならば、塔を背負った小型のサイ(ライナサラス)である。その大きさは子供であっても体長二メートルほどにな
    る。
    腰のあたりから背中に突き出したその『塔』は機械的な音を立てて蒸気を噴き出している。その付け根から数本の角のようなものが
    生えているのだが、これを銃身として、このドラゴンは鉛の弾丸の一斉射撃を行うことができるのだ。
    外皮は恐ろしく硬く、ナタで打ったところで傷ひとつつくことはないだろう。
    さらに特殊な体液が身体の表面を湿らせていて、熱エネルギーの伝導を著しくカットする。
    地上のいかなる環境でも生存できるような強靭な身体も生命力も持ち合わせている。また、知能も動物的ではあるが恐ろしく高
    い。
    ドラゴンの中でも最悪との呼び声が高い。もっとも、実際にドラゴンにあった人間がどれほどいるのか不明な以上、さほど意味のあ
    る評価とも思えないが。
  ミスト・ドラゴン種族の生態

    ミスト・ドラゴン種族は、石や金属を食べて、それを体内で細かく加工し、背中の『角』状の銃身から撃ち出すことができる。
    その一斉射撃をマトモに食らえば原形を止めておけるような物質はこの大陸にはなく、むろん魔術で防げるような次元のものでも
    ない。
    さらにその背中に背負った『塔』はいわゆる蒸気機関になっている。これを超回転させて、強烈無比な雷撃を発生させることもでき
    る。いわゆる、ミスト・ドラゴンの『神の槌』である。
    (北欧神話のミョルニルの槌を連想させる。と言うことは、ミスト・ドラゴンはトゥール(ソール)? ちょっと荷が勝ちすぎか)
    ミスト・ドラゴン種族の持つ破壊力は、地上最強の名にふさわしく、一海里沖に浮かぶ鉄鋼船すら爆沈することがある。
    生身におけるキエサルヒマ最強の生物と言っても、過言ではないだろう。
  ミスト・ドラゴン絶滅の危機!?

    ミスト・ドラゴンは、いわゆる絶滅の危険性を持った保護生物である──少なくとも王室令でそう定められている。
    この最強の肉体を前にしてなにゆえ、そのような法令ができているのか分からないが、貴族連盟にとっては知能のないドラゴン種
    族が、必要なのかもしれない。つまり、彼らの利権を犯さないドラゴン種族が。
    単純に実態を知らない、と言ったことも考えられるが……。
    なんにせよこの法令のおかげで、ミスト・ドラゴンの価値は逆に上がったわけで、好事家達の中には莫大な賞金をかけてコレクショ
    ンにしようとするものがいるという。

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